2025/08/01
フェムテックとは?フェムテックの意味や製品カテゴリ、企業が注目する理由を解説

目次
フェムテックとは
「フェムテック(Femtech)」とは、女性の健康課題をテクノロジーで解決しようとする製品やサービス、ビジネスを指す言葉です。「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、2016年にデンマーク出身の起業家イダ・ティン氏が提唱したことで世界的に広まりました。
フェムテックは、女性特有の健康課題に焦点を当て、それらをテクノロジーによってサポートすることを目指しています。多くの女性は月経、妊娠、出産、更年期など、ライフステージごとにさまざまな身体的変化や健康課題を経験します。しかし、これらの課題は長い間、社会的タブーや理解不足により十分に対応されてきませんでした。
フェムテックの登場により、月経トラッキングアプリ、排卵予測デバイス、妊活支援ツール、自宅で使用できる検査キット、オンライン相談サービスなど、女性の健康をサポートするさまざまなソリューションが開発されています。また、AIや機械学習などの最新技術を活用したパーソナライズされたヘルスケアサービスも増加しています。
世界的にみると、フェムテック市場は成長を続けており、2024 年の 77 億 5 千万ドルから 2032 年までに 296 億 2 千万ドルに成長すると予測されています。 日本でも徐々に認知度が高まり、スタートアップ企業を中心に様々なサービスが生まれています。これは単なるビジネストレンドではなく、女性の健康と生活の質に関わる社会的な側面も持つ中長期的な動きと考えられています。
なお、フェムテック製品の中には医療機器に該当するものと該当しないものがあります。医療機器に該当する製品は、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく承認や認証を受けている必要があります。本記事で紹介する製品やサービスの中には、医療機器ではないものも含まれており、症状や疾患の診断・治療を目的としたものではない場合があることをご了承ください。健康上の不安がある場合は、必ず医療専門家に相談することをお勧めします。

フェムケアとの違い
フェムテックと類似した言葉に「フェムケア」がありますが、両者には一定の違いがあります。
「フェムケア(Femcare)」は、主に女性の体や健康をケアするための製品やサービスを指します。生理用品(ナプキンやタンポン、月経カップなど)、デリケートゾーンのケア製品、妊娠・出産関連の商品など、従来から存在する女性向けのケア商品がこれに該当します。
一方「フェムテック」は、テクノロジーを活用して女性特有の健康課題をサポートするための製品やサービスです。単なる商品提供ではなく、AIやIoT、ビッグデータなどの先端技術を活用して、新たな価値や解決策を提案することに重点を置いています。
具体的な違いを例示すると以下の通りになります。
- フェムケア:従来の生理用ナプキン、タンポン、洗浄料など
- フェムテック:生理周期を記録・予測するアプリ、ホルモンバランスを測定するウェアラブルデバイス、オンライン健康相談システムなど
フェムケアが物理的な「ケア製品」を提供するのに対し、フェムテックは「テクノロジーによる課題解決」という側面が強いと言えます。ただし、最近ではこの境界線は徐々に曖昧になってきており、フェムケア製品にもテクノロジーが取り入れられるようになっています。例えば、スマートフォンと連携する機能を持つ生理用品などは、フェムケアとフェムテックの融合と考えられます。
重要なのは、どちらも女性の健康と尊厳をサポートする重要な領域であり、互いに補完し合う関係にあるということです。
フェムテックの6カテゴリ
フェムテックは女のライフステージやニーズに応じて、大きく6つのカテゴリに分類できます。それぞれのカテゴリにおけるフェムテックの現状と可能性について見ていきましょう。
月経・生理
月経は多くの女性が長年にわたって毎月経験するものですが、個人差が大きく、適切な管理や理解が不足していることも少なくありません。このカテゴリのフェムテックは、月経に関連する課題をサポートし、より快適な生活をサポートすることを目指しています。
代表的なものとして、生理周期や症状を記録・予測するアプリがあります。これらは次の生理日を予測するだけでなく、PMS(月経前症候群)の症状パターンを記録したり、体調の変化を可視化したりすることで、自己管理をサポートする可能性があります。また、生理痛緩和を目的とした温熱デバイスや、ホルモンバランスの変化を測定できるウェアラブルデバイスなども開発されています。
生理用品のサブスクリプションサービスも広がりを見せており、個々のニーズに合わせた商品を定期的に届けるサービスは、買い忘れの心配や店頭での選択の手間を省く可能性があります。さらに、環境に配慮した再利用可能な月経カップやオーガニックナプキンなど、サステナビリティを意識した製品も増加しています。

妊娠・不妊
妊活や不妊に関する課題は、身体的・精神的・経済的な負担を伴うことがあります。このカテゴリのフェムテックは、科学的アプローチで妊娠をサポートし、不妊に関心のあるカップルに情報やツールを提供することを目指しています。
排卵日予測アプリは比較的普及しているサービスの一つで、基礎体温や身体症状などのデータをもとに排卵のタイミングを予測します。より高度なものでは、唾液や尿を分析して排卵のタイミングを測定するデバイスも登場しています。また、精子の状態を自宅で検査できるキットは、男性側の不妊要因の確認をサポートする可能性があります。
不妊治療を受ける女性向けのアプリも開発されており、治療の記録管理や薬の服用リマインド、医師との情報共有機能などを提供しています。さらに、AI技術を活用した研究も進められており、専門医による治療判断をサポートする可能性が検討されています。
このカテゴリでは医療機関と連携したサービスも見られ、専門医のオンライン相談や情報提供を組み合わせることで、より包括的なサポートを目指しています。
産後ケア
出産後の女性は身体の回復や育児、ホルモンバランスの変化など、多くの変化に対応する必要があります。産後ケアのフェムテックはこの時期をサポートし、母親の心身の健康をサポートすることを目指しています。
産後の骨盤底筋トレーニングをサポートするアプリやデバイスは、尿失禁などの症状に対するセルフケアに活用できると期待されています。またスマートフォンと連動するケーゲルエクササイズ器具には、トレーニングの状況をデータ化し、継続的な取り組みをサポートする機能を持つものもあります。
最近では母乳育児をサポートするスマート搾乳器も注目されており、搾乳量の記録や赤ちゃんの授乳パターンの把握、搾乳リズムの調整などの機能を持つものがあります。さらに、産後の心理状態をモニタリングするアプリも開発されており、心身の変化に対する気づきを促す可能性があります。
産後の女性をつなぐコミュニティプラットフォームも一定の役割を果たしており、同じ経験を持つ母親同士の交流や専門家からの情報提供を受けられるオンラインスペースを提供しています。こうした交流は、産後の不安軽減につながると期待されています。

更年期
更年期は女性のライフステージの中でも個人差が大きく、適切な情報や対処法の不足から不安を感じる女性も少なくありません。このカテゴリのフェムテックは、更年期への理解促進と体調変化の管理をテクノロジーでサポートすることを目指しています。
更年期の症状を記録・分析するアプリには、ほてりや気分の変化、睡眠の質などを継続的に記録し、個人の状況に合わせた情報提供を行うものもあります。ウェアラブルデバイスと組み合わせることで、体温変化や発汗量などのデータも収集でき、より詳細な状況把握をサポートできると考えられています。
体温調節をサポートするデバイスも開発されており、ほてりを感知すると冷却機能が作動するウェアラブル冷却器具や、温度調節機能付きの寝具などがあります。また、ホルモンバランスを測定できるキットも開発されており、自宅でホルモン状態の変化を把握できる可能性が広がっています。
さらに、ユーザー間の情報共有や専門家による情報提供を受けられるオンラインプラットフォームには、更年期に関する正確な知識の普及と心理的サポートに貢献する可能性があります。これらのテクノロジーは、更年期の体調変化に対する理解を深め、より良い生活の質の維持をサポートできると期待されています。
婦人科系疾患
婦人科系疾患は早期の気づきと適切な対応が重要ですが、受診のハードルの高さや情報不足により、対応が遅れる場合も少なくありません。このカテゴリのフェムテックは、婦人科疾患に関する理解促進や症状管理、適切な医療へのアクセスをサポートすることを目指しています。
子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの症状を記録し、パターンを把握するアプリは、医療専門家との情報共有に役立つ可能性があります。また、自宅で実施できる性感染症(STI)検査キットには、プライバシーに配慮しながら検査を行い、必要に応じて医療機関への相談を促すものもあります。
また医療機器として承認された超音波技術を活用した婦人科検査機器の研究開発も進められており、医療専門家による診断や検査をサポートする可能性が検討されています。さらに、AIを活用した医療画像分析システムの研究も進められており、医療専門家による診断をサポートする可能性が期待されています。
婦人科系疾患に関する情報共有プラットフォームも重要な役割を果たしており、同じ症状や疾患に関心を持つ女性同士の情報交換や、専門家による情報提供の場となっています。こうしたプラットフォームには、適切な医療情報へのアクセスや心理的サポートが期待されています。

セクシャルウェルネス
女性のセクシャルヘルスやウェルネスは、全体的な健康の一部分ですが、社会的にオープンな議論や情報共有が難しい領域でもあります。このカテゴリのフェムテックは、科学的アプローチと教育を通じて、女性のセクシャルウェルネスをサポートすることを目指しています。
セクシャルヘルス教育アプリは、解剖学的知識や性の健康に関する情報を提供し、自己理解を深めるためのツールとなる可能性があります。また、骨盤底筋のトレーニングをサポートするデバイスは、性機能や尿失禁などの課題に対するセルフケアに活用される可能性があります。
性的健康に関する課題に対応するために設計されたデバイスも開発されており、科学的知見に基づいたアプローチで女性の性的健康をサポートすることを目指しています。さらに、パートナーとのコミュニケーションをサポートするアプリなども開発されています。
このカテゴリは特に文化的・社会的な理解が必要な領域ですが、プライバシーに配慮したデジタルソリューションにより、女性がより安心して自身のセクシャルウェルネスに関する情報にアクセスし、必要なサポートを受けられる機運が高まっています。
フェムテックを生活に取り入れるメリット
フェムテックを日常生活に取り入れることで、女性はさまざまな可能性を享受できると期待されます。
自分の体への理解を深める可能性
フェムテックアプリやデバイスを使用することで、月経周期やホルモンバランスの変化、体の反応パターンなどを記録・可視化が期待でき、これにより、自分の体の特性や変化への理解を深める一助となる可能性があります。データに基づいた自己理解は、体調管理や健康への意識向上につながります。

健康に関する気づきを促す可能性
継続的なデータ収集と記録により、通常とは異なる変化や兆候に気づきやすくなります。例えば、月経周期の変化や、特定の症状の変化などは、健康状態の変化を示している場合があるので、フェムテックを通じてこれらの変化に気づくことで、必要に応じて医療専門家に相談するきっかけとなります。
日常生活のサポート
フェムテックは日常生活における様々な場面でサポートとなる可能性があります。例えば、月経前症候群(PMS)の予測アプリがあれば、体調変化への準備を整えることができる場合があります。
また、生理痛緩和を目的としたデバイスや更年期の体調変化に対応するためのツールなどは、日常生活の快適さをサポートすることが期待されています。
医療専門家とのコミュニケーションをサポート
フェムテックで収集したデータは、医療専門家との相談時に参考情報として活用できる可能性があります。具体的なデータをもとに症状や状況を説明することで、医療専門家とのコミュニケーションをサポートし、健康管理に役立つ可能性があります。
また、オンラインでの健康相談サービスと組み合わせることで、専門家のアドバイスを受けやすくなる場合もあります。
時間と労力の効率化
フェムテックサービスの多くはオンラインで利用でき、24時間アクセス可能です。
また、自宅で実施できる検査キットやモニタリングデバイスは、移動時間や待ち時間を削減できる場合があります。生理用品のサブスクリプションサービスなどは、定期的な買い物の手間を省き、必要なタイミングで必要なものが届く便利さを提供することが期待されています。

情報共有とつながり
多くのフェムテックサービスには、同じ課題や関心を持つ女性たちとつながる機能が備わっています。
これにより、経験や知識の共有、情報交換を行うことができ、「自分だけが経験しているわけではない」という安心感につながります。特に社会的に話題にしづらい課題に対しては、このようなつながりが支えとなるでしょう。
プライバシーへの配慮
健康課題について、対面での相談に抵抗を感じる場合も少なくありません。フェムテックサービスは、プライバシーに配慮しながら必要な情報やサポートにアクセスする選択肢を提供します。自宅で実施できる検査キットやオンライン相談は、このようなニーズに応えられると考えられています。
なお、フェムテック製品やサービスの効果や利点には個人差があり、すべての方に同じ結果や体験をお約束するものではありません。また、医療機器に該当しない製品は、診断や治療を目的としたものではないことにご留意ください。健康上の不安がある場合は、医療専門家にご相談ください。
企業も注目するフェムテック
近年、フェムテックは多くの企業から関心を集めています。その背景と企業がフェムテックに取り組む意義について考察します。

企業がフェムテックに注目する理由
多様性と包摂性(D&I)の推進
多くの企業が多様性と包摂性を経営課題と位置づける中、女性特有の健康課題への理解と対応は一つの要素となっています。女性の健康課題を理解し、適切なサポートを検討することは、多様な働き方を支援する取り組みの一部と考えられます。フェムテックへの関心は、企業の多様性への取り組みの一環とも言えるでしょう。
女性の活躍推進と職場環境
生理痛や更年期症状などの女性特有の健康課題は、働き方に影響を与える場合があります。月経関連の症状による欠勤や業務効率への影響は「月経ロス」として研究されており、経済的影響があるという指摘もあります。フェムテックを活用して女性社員の健康をサポートすることは、働きやすさの向上につながります。
健康経営の一環として
健康経営が注目される中、従業員の健康管理は重要な経営戦略の一つとなっています。フェムテックは女性従業員の健康維持・増進をサポートするツールとして、健康経営の一要素ととらえられており、健康経営優良法人認定などの評価においても、女性の健康支援は評価ポイントの一つとして考慮されます。

福利厚生の一環として
人材確保が課題となる中、福利厚生の内容は企業選びの判断材料の一つです。フェムテックサービスの提供は、女性従業員にとって関心を持たれる福利厚生となる可能性があり、採用や定着に関連します。特に若い世代は、企業の多様性への取り組みや福利厚生を重視する傾向があるという調査結果もあります。
企業におけるフェムテック関連の取り組み例
生理休暇・フレキシブルワーク制度との連携
生理休暇制度を設けるだけでなく、フェムテックアプリを活用して自身の体調管理をサポートする取り組みを行う企業も見られます。これにより、従業員は必要なタイミングで休暇を取得したり、リモートワークを選択したりと、体調に合わせた働き方を選択できます。
フェムテック製品の福利厚生への取り入れ
月経トラッキングアプリのプレミアム版や、生理痛緩和を目的としたデバイスなどを福利厚生として提供する企業も登場しています。健康保険や福利厚生プログラムを通じて、フェムテック製品・サービスの費用を補助する制度を導入する企業も見られます。
女性の健康に関する情報提供
フェムテック関連企業と連携し、職場での女性の健康に関する情報提供セミナーや、デジタルツールを活用したオンライン学習プログラムを提供する取り組みも行われています。これにより、従業員の健康リテラシー向上と、職場における女性の健康課題への理解促進を図ることが期待されています。
オフィス環境の整備
体調変化に対応した温度調節可能なワークスペースの設置や、女性の健康に配慮したリラクゼーションスペースの設置など、物理的な環境整備を行う企業も見られます。これらはフェムテックの考え方を物理的空間にも拡張した取り組みと考えることもできます。

企業におけるフェムテック関連の取り組みの検討ポイント
プライバシーへの配慮
フェムテックサービスを導入する際は、利用者のプライバシー保護が重要です。個人の健康データが企業側に共有されないよう、適切なデータ管理体制の整備と、従業員への十分な説明が望ましいでしょう。
多様なニーズへの対応
女性従業員といっても、年齢や健康状態、ライフステージなどによってニーズは多様です。幅広い層がメリットを感じられるようなフェムテック関連の取り組みを検討することが重要です。
継続的な評価と見直し
フェムテック関連の取り組みの効果を定期的に評価し、従業員の声を反映させながら継続的に見直していくことが重要です。形式的な導入ではなく、実質的な効果を生み出すためには、継続的な改善の姿勢が大切でしょう。
まとめ

フェムテックは、「女性×テクノロジー」という視点から、女性特有の健康課題に向き合い、サポートする製品やサービスの領域です。月経・生理、妊娠・不妊、産後ケア、更年期、婦人科系疾患、セクシャルウェルネスといった幅広いカテゴリにおいて、テクノロジーを活用した多様なソリューションが開発されています。
フェムテックを生活に取り入れることで、女性は自分の体への理解を深め、健康に関する気づきを得たり、日常生活のサポートを受けたりできる可能性があります。また、医療専門家とのコミュニケーションのサポート、時間・労力の効率化、情報共有とつながり、プライバシーへの配慮といった観点からも、様々な可能性が期待されています。
企業にとってもフェムテックは関心を集める領域となっています。多様性と包摂性の推進、女性の活躍推進と職場環境の整備、健康経営の一環、福利厚生の一環として、フェムテックへの取り組みは企業活動の一部となる可能性があります。生理休暇・フレキシブルワーク制度との連携、フェムテック製品の福利厚生への取り入れ、女性の健康に関する情報提供、オフィス環境の整備など、様々な形での取り組みが見られます。
フェムテックは単なるビジネストレンドではなく、女性の健康と生活の質に関わる社会的な側面も持つ動きです。女性が自分の体と向き合い、適切な情報とサポートを得ながら健康的に生活するための選択肢が増えることは、女性個人にとっても社会全体にとっても意義があると考えられます。
今後もテクノロジーの発展と共に、フェムテックはさらに進化していく可能性があります。健康モニタリングの精度向上、個人に合わせた健康管理、アクセスのしやすさの向上など、女性の健康と生活の質をサポートする可能性は広がっています。フェムテックが社会に浸透し、すべての女性が自分らしく健康に生きられる環境づくりにつながることが期待されます。
なお、本記事で紹介したフェムテック製品やサービスの中には医療機器ではないものも含まれており、診断や治療を目的としたものではない場合があります。効果や利点には個人差があり、すべての方に同じ結果や体験をお約束するものではありません。健康上の不安がある場合は、医療専門家にご相談ください。